川崎裕一 / マネタイズおじさん

元起業家でスタートアップのコーチやってます。スマートニュース株式会社執行役員。

『タクシー王子、東京を往く。』で川鍋一朗さんのファンになる

『タクシー王子、東京を往く。』は、「桜にN」で有名なタクシー会社、日本交通株式会社の社長川鍋一朗さんが、実際にタクシー運転手として勤務した一ヶ月間の記録です。

タクシー王子、東京を往く。―日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」

タクシー王子、東京を往く。―日本交通・三代目若社長「新人ドライバー日誌」

川鍋さんは、二〇〇〇年に家業の日本交通に入社し、一九〇〇億円の負債に対してグループ会社の大半を売却、赤坂の自社ビル売却、大井埠頭の倉庫街へ移転、一〇〇人近いリストラを断行し、再建にめどがたった二〇〇五年に社長に就任。そして、二〇〇七年一二月、突然タクシー運転手になると宣言します。

曰く、

次の三〇年を見据え、三代目の自分に、今必要なものはなにか?
それはおそらく、現場感覚。ハンドルを握った最前線での経験だろう。

ということ。思っていてもできることではないです。

一人前になるまで三年はかかると言われるタクシー運転手。五万八〇〇〇台ものタクシーがひしめくタクシー激戦区である東京。この熾烈な世界に飛び込むわけですから。

更に川鍋さんは大きなハンディが。

私、正直なところ、ものすごく地理音痴なんです。生まれ育った港区と、会社のある品川区以外、ほとんど道も地名もよく分からないありさまで。タクシー会社の社長なのに・・・・・・お恥ずかしい限りです。

この後も、「銀座三越」を「日本橋三越」と勘違いしていたり、「新宿通り」を「新宿トンネル」とごっちゃにしていたり。五回の営業で、三回も勘違いやうっかりミスをした。

知らなかったです・・・・・・明治通りが池袋を通っているなんて。

なかなかの地理音痴っぷり。。。

しかしながら川鍋さんは、タクシー運転手としては一ヶ月間勤務し、1日の平均営業収入である五万円を13日間の走行日数中8回達成しています。

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日数 走行(キロ) 営業(回) 営業収入(円)
1日目 293 23 37,120
2日目 247 33 50,930
3日目 294 20 48,710
4日目 235 33 50,290
5日目 313 35 70,520
6日目 416 31 84,740
7日目 249 25 49,690
8日目 281 32 57,840
9日目 302 45 71,100
10日目 316 41 72,940
11日目 422 32 85,690
12日目 425 43 91,680
13日目 259 34 64,460

川鍋さんの強さはやはりあらゆる面での愚直さにつきます。この本の至る所からあふれ出ています。物腰は極めてソフトでありながら、言葉の端々にとても強い意思、日本交通の三代目としての責任感というものが感じられるのです。

加えて数字を確実に上げていく力がすごい。ホームランは狙わず自分なりの方法論を短期間で確立し、それを持ち前の愚直さで淡々と実行し、一度やった間違いは教訓として二度と犯さず、勤務日数にしたがって確実に上がっていく営業収入という確実な数字で結果を出していく。

それを自分だけができることとせず、みんなが参考にできる枠組みに落とし込む能力も優れています。それが下記の「タクシーの基本」「タクシーの応用」です。

  • タクシーの基本=マジメに、怠けず、しっかり休憩とりながら。
    • 決められた時間内できっちり走りきることが基本。時間が長ければそれだけお客さんを乗せる機会が増え、必然的にロングに当たる確率も増える。ロングが無くても最低限の収入は確保できる。そのためにしっかりと休憩を取る。路上で仮眠するタクシー運転手は稼げない。
  • タクシーの応用=技術を身につけ、効率を上げる。
    • 収入より回数を目標にすると心理的に安定する。たとえワンメーターでも一回は一回。目標に近づける。ワンメーターを大切にする人にロングが巡ってくる。回数をこなしていくとロングがまじり目標達成できる。
    • 回送はお客様の都合より自分の都合を優先するという意思表示。なるべく使わない。
    • 流しながら乗り場にいき無線に一〇〇%応答。平均は流し一四〇〇円、乗り場二三〇〇円、無線四〇〇〇円、チケット六三〇〇円。
    • 巡回コースをつくる。調子が悪いときでもこれさえやっておけば最低限稼げるという得意パターンを作る。
    • 時間毎に収入目標を設ける。

ここまでシンプルに書かれると「自分もできるかも」と思えてしまいます。(もちろん実践はシンプルではないですが・・・・・・)

私は、この本を読んでまんまと川鍋さんと日本交通のファンになってしまった。

タクシー乗るなら日本交通に乗ろうかなぁと思ってしまったので川鍋さんの術中にはまってしまったわけですね(笑)。