川崎裕一 / マネタイズおじさん

元起業家でスタートアップのコーチやってます。スマートニュース株式会社執行役員。

おもてなしの経営学

Life is beautifulの中嶋さんの『おもてなしの経営学』を読みました。

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)

いつもブログで書かれている内容を一段掘り下げた内容に加えて、ひろゆき、元マイクロソフトの古川さん、梅田さんの対談も入っていてかなり読み応えがあります。

幾つか心に残ったことをメモ。

『カイゼン』の本質

  • トヨタの『カイゼン』は現場の熟練工に大きな主導権を与え『クラフトマンシップ(=日本語では職人魂)』つまり『誇り』と『愛着』を仕事の現場に息づかせたことにある。
  • 欧米的な手法では生産管理はスーツが、現場の人間は標準化された作業をひたすら生産をするという形になり対立が産まれた。トヨタの場合には現場に誇りと自主性があるからこのような対立は起こらない。今のIT業界はまさに欧米的な手法で回っている。
  • IT業界の熟練工に『クラフトマンシップ』を持たせることが何よりも肝心だ。市場が求めるものを誰よりも効率的に素早く作り出せる責任を現場のIT熟練工に持たせることが大事だ。

非常にシンプルに『カイゼン』と今のIT業界の問題点の関係を解説していてとても合点がいきました。仕様書通りに作るということがあまりにも重視され、技術屋(あえて技術屋)のこだわりや創造性を発揮することができない。これではモチベーションの上げようがありませんよね。技術屋にはクラフトマンシップがあるんだからそこを最大限発揮するような環境を作らないと。

ひろゆきが語るニコ動

  • ニコ動は1日ピークで60Gbpsの帯域を使う。総務省のデータによると日本全国のピークの帯域は720Gbps。ニコ動が12分の1を占めてる。お金を払えば済むという問題では無くなってきていて政治的な問題になってしまうかもしれない。
  • 今お金を払っている人はかなりのヘビーユーザー。ヘビーユーザーがこれからどんどん増える感じはない。会員が増えるスピードよりもヘビーユーザーが増えるスピードが遅ければ有料会員率は今よりも小さくなる。加えて平均滞在時間は増えて行っている。平均滞在時間が増え利用される帯域が増えていくとコストが増える、有料会員があまり増えないけど有料会員モデルだけでしかお金が入ってこないとなるとコストの増加スピードの方が大きくなってきつくなる。

外から見ていると順風満帆に見えるニコ動ですが一番その将来性を危惧しているのはひろゆき本人というこの事実。だからこそニコ動を見ていると楽しいし何か新しいことをやっている感じがするんでしょうね。それをしないといつ無くなってもおかしくないサービスだからひろゆきをはじめとした中の人たちは本当に真剣にサービスに挑んでいるという。中嶋さんは見事にひろゆきの冷静さとまじめさの面を引き出している気がします。

古川さんと中嶋さんが考えるIT業界の課題

  • 日本のIT業界では世界的なブランドを生み出したり世界中の誰もが使っているけど目立たないものを作っても認知されず金をすごく儲けたという人が認知される。VCにしてもアメリカのベンチャーキャピタルは例えばセコイアキャピタルとかは夢の実現のためにはどんな資金繰りや経営判断が必要かを指導しながら技術の眼がマーケットに向くように育てていくが日本のベンチャーキャピタルは上場して株価を下げて売り抜けることが目的になってる。
  • ベンチャーは、金持ちになるだけで終わるとか、技術畑の人たちの間だけで知られて終わるんじゃなくて、たくさんの人に使ってもらって社会的な認知をうけるまでに育たないとだめ。そのためにベンチャーキャピタルも育たないとだめ。
  • 今日本のIT業界に足りないのは『おもてなしの心』。茶の湯では相手に手順を楽しんでもらい満足な気分になって帰ってもらうことを目指す。デパートにしても入り口で挨拶して包み紙で商品渡すとかそこまでしなくてもいいのにという過剰な接客でもてなす。相手がお金を払ってくれるからではなくて、相手に最高に満足してもらいたいからというのは日本の伝統にあったはずなのに無くなってしまってる。
  • ユーザー・エクスペリエンス(=おもてなし)は、ソフト、ハード、インダストリアルデザイン、マーケティングが一体となって初めて魅力的になり得るものであって、縦割りの組織ではとてもできない。トップが大事さを理解して、細かいところにまで声を出して、何が大事かをチーム全員に共有していかないとだめ。日本人はこの手のマイクロマネジメントの手法を細かすぎて嫌がるようになったのが根本的な問題。手間がかかるからおもてなしに強いアップルでは製品数が少ないのは自明なこと。

ベンチャーの存在価値と『おもてなしの心』についてのところが特に心に残ります。おもてなしというのは相手のことを徹底的に考えることから始まるというのは日本人にはとてもなじみが深い話だと思います。しかしながらことITになるとそれを忘れて新しいものを使い勝手悪く提供してしまう。スピードばかりを追い求めている悪しき習慣と断罪すべきところなのでしょうか。デザインに優れたプロダクトがマイクロマネジメントから生まれるというところは確かにイタリア車と日本車を思い浮かべれば分かりやすいかもしれませんね。その中間はなんでしょうドイツ車のBMWとかかなあ。

ブログサービス事業者への宿題

  • 自分が死んだあとブログをずっと読めるように管理して欲しい。それはとても価値のあることだと思う。

直接自分の仕事に関係のある話題。挑んでいきたいと思います。