川崎裕一 / マネタイズおじさん

元起業家でスタートアップのコーチやってます。スマートニュース株式会社執行役員。

The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-

現在コンピューター上でそしてウェブ上で何かを表現しようとした場合にほぼAdobeは製品を使うことになっています。何かを生み出すときにそこに必ずある製品であるAdobe製品はシリーズ名「Adobe Creative Suite」に強く表れています。

Adobeがどのようにして生まれ、どう成長してきたのかを詳細に書かれた本が『The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-』です。

The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-

The Adobe Story -出版革命をデザインした男たち-

Adobeはこんな成長を遂げてきました。
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そして売上が1億ドル(日本円にして約110億円)を超えるまで創業から8年しかかかっていません。
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この恐るべしAdobeの成長は大きく三つのフェーズからもたらされました。

Adobeは1982年12月にJohn WarnockとChuck Geschekeによって設立されました。この時二人とも40歳でした。Adobeの最初の成功はPostScriptがAppleに採用されDTP市場が大きく成長していくことでもたらされました。DTP市場の拡大によってAdobeは株式公開を果たしますがこのときAdobeの売上の実に84%はAppleからもたらされていました。このPostScirpt時代が一つのフェーズです。

しかしこのモデルはMicrosoftがTrueTypeフォントととTrueImageプリンインタープリタ開発した結果崩れます。

その一年後1990年。ソフトウェアアプリケーションのために作られた支援製品ビジネス部門のディレクターだったDavid Pratt、ビジネス開発と戦略計画のディレクターであったFred Mitchellはグラフィックアプリケーション市場の潜在的な規模を示し、ビジネスを描き、Adobeが取り組むべきアプリケーションも選定し、ここから一気にグラフィックアプリケーションビジネスに舵を切ります。牽引したのはもちろん、IllustratorPhotoshopです。このグラフィックアプリケーション時代が二つ目のフェーズです。これは今も続いていますね。

そして現在進行形のフェーズがAcrobatとウェブのフェーズです。これまで培ってきたグラフィックアプリケーションをウェブに素早く対応させていくのと同時に企業内での情報共有とAdobe化を勧めるためにAcrobatを普及させていった歴史です。Macromediaを買収しこの流れは加速してきています。

私がとても興味を持ったのは、第二のフェーズにおいて如何にグラフィックアプリケーションを広めていったかです。Adobeのアプリケーションはいきなり素人に使えと命令しても中々使えるものではないだろうと思ったためです。今は様々な指南書があふれているもののその当時はどうやっていたのかと。

まず最初に力を入れたのはパッケージデザインだそうです。製品のパッケージとその付属物は、素晴らしいデザイン能力をAdobe自身が持っていることを示し、パッケージそれ自身がAdobe製品を宣伝してくれる営業マン(=ショーケース)として機能する。製品を購入する人がAdobe製品を使うとこんなことができるんだ、自分でもできるんだということを感じてもらうパッケージデザイン、あこがれを感じるデザインというのに秘訣がある。だからパッケージには高い基準を設けた。

次にクリエイティブチームは巡業やワークショップを通じてデザイナーと交流を持ち、製品を草の根的に布教していった。世界中を飛び回り、セミナーで講演し、講習会を指導する。学校の講義の枠ももらったこともある。今でいうところのインフルエンサーマーケティングの要素もありますね。利用する人が最初は限られていたからこそ現場に開発者やデザイナーが出かけていって積極的に自ら製品を使ってみせるということが普及させるための第一歩ということだったと。

1987年にIllustratorが出荷されたとき、John Warnock自身がペンツールの使い方をデモしたビデオテープが同梱されていました。引用します。

WarnockはモノクロのMacintosh SEの前に座り、最初から最後まで順を分で花を描写していた。難解なIllustratorの機能をデモするテープは、これを使いこなせるのはWarnockだけだという伝説を生んだ。

Warnockとクリエイティブチームは一丸となってIllustratorの普及に努めていたことが分かります。今であればWarnockは間違いなくYouTubeを使うんでしょうね。