川崎裕一 / マネタイズおじさん

元起業家でスタートアップのコーチやってます。スマートニュース株式会社執行役員。

虚構−堀江と私とライブドア

虚構 堀江と私とライブドア

虚構 堀江と私とライブドア

ライブドアがすさまじい勢いで急成長し、そして音を立てて崩壊していく。その様を最も深い内部から堀江さんの右腕としてライブドアを支えた元CFO宮内亮治さんが、ライブドア社内から見て、宮内さん自身を重ねながら彼の何とも言えない息苦しさとともに描く。

読んでいくうちにぐいぐいと引き込まれる。ベンチャー企業に携わっている人であればよりその引き込まれる力を本当に強く感じるだろう。

ページをめくるとすぐに非常に生々しくライブドアにおける上場後の利益を生み出す苦労がかかれる。堀江さんの徹底した高い目標設定と下方修正を絶対に許さない厳しい姿勢。それを達成しようと必死でもがく社員、取締役たち。この窒息しそうな状況で魔法のように売上を立てていく宮内さん率いるファイナンス部門の存在。そしてライブドアはファイナンス部門に過度に依存していく。

ライブドアの2003年9月期の業績予想は売上100億、経常利益16億円。しかし第三四半期までの数字は72億円、経常利益2億6000万円でありポータル部門、コマース部門では達成できないことは明らかだった。数字が作れるのはファイナンス部門だけである。ここでファイナンス部門はすでに買収済みであった証券システムの開発、コンサルティングを手がけるインタートレード*1を売却して売上を作ってしのぐ。まさにこの時、この瞬間からライブドアが売上を作っていく上でのファイナンス部門依存がが始まった。

2004年9月期は経常利益20億円が目標だった。しかしすぐに営業利益は10億円に満たないことが判明し、堀江さんが烈火のごとく怒る。ファイナンス部門はイーバンクに出資し共同のファンド組成し管理料として7億3000万円を予算に組み込むことを画策する。しかしファンド組成ができる可能性が低かったため、野口英昭*2さんがクラサワの売却を提案、そして次にウェブキャッシングの売却で数十億(結果として30億)を積む。

結果2004年9月期中間決算では売上250億、経常利益50億に上方修正される。しかしながら2004年8月23日の段階では目標とする経常利益に15億とどかずが未達になるとの報告があがってくる。そこでキューズとロイヤルにコンサルタント、広告宣伝業務名目で発注をさせ売上を作ること。これによって15億8000万円を売上計上した。

ここまではまだまだ序盤戦であり、本書では更に突っ込んでなぜライブドアライブドアになったのかを様々な鍵となる人物とともに掘り下げていく。

利益のあくなき追求がライブドアを成長させた。しかしこの成長と表裏一体であったのはどんな売り上げにせよ金が生まれれればいいという姿勢であった。

宮内さんは本書の中でこう書いている。堀江さんは天才的な事業の読みの確かさを持っていた。一方でライブドアはその読みを事業にしていく実力はまだなかった。このギャップが常に存在していたと。

それを堀江は、社員の努力で埋められると考えた。おそらく「自分ならできるはず」だからと思ったのだろう。だが堀江ほど優秀な人材はそれほど多くない。なのに、それが理解できないから、不可能な目標を立て、実現できなければ「どうして、どうして」と詰める。本来、無理なものは「未達」の上で「下方修正」すればいいのだが、それができない。結局、最後はベンチャー投資、M&Aなど投資銀行業務に精通したファイナンス部門が活躍、2001年、2002年、2003年と堀江の"野心"を満たしてきた。

なせば成るービジネスはそんな精神論で展開できるものではないが、ファイナンス部門の頑張りが逆に堀江を増長させ、検察が認定する「粉飾」にライブドアを踏み込ませていったのである。

これが本書の要点であり、ライブドア事件の本質なのだ理解した。